日本の武器輸出の現状 パワーバランスの変化

日本の武器輸出の現状 パワーバランスの変化

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2021年の衆院選では「敵基地攻撃能力の保有」が争点の一つになったものの、武器輸出の議論は低調だ。その間に沖縄ではミサイル配備が進む。アンフィルターは武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司さんに現状と課題を聞いた。前半より続く。

大津 日本は防衛装備品の輸出名目で各国と武器輸出協定の締結に動いている。このことは米国の世界戦略の変化、アジア太平洋地域でのパワーバランスの変化と関係するか。日本もこの新バランスに対応し始めているのか。

杉原 中国抑止包囲網の一環で、米国がしていた一部の国への輸出を日本が肩代わりし、使える武器を輸出するということだ。

米国と英国とオーストラリアで軍事同盟「AUKUS(オーカス)」が創設されたが、インドネシアやマレーシアは「軍拡競争を促すからやめてくれ」とこれに批判的だ。日本のように米国に隷属するのとは違い、東南アジア諸国は中国とも利害があり、バランスを保とうとしている。

企業に輸出を迫る政府

大津 そうりゅう型潜水艦の輸出計画はAUKUS前の動きと関連づけて見る必要がある。日本政府はもともと、オーストラリアにリチウムイオン潜水艦技術を渡すつもりはなく、売ろうとするポーズを取っていただけではないか。その後、オーストラリアはいったん、仏との通常動力型潜水艦の共同開発を決めたが、中国強硬路線のAUKUSの創設により、米国の原潜を調達させられることになった。

杉原 日本政府はポーズではなく本気で売ろうとしていた。成功すれば政治的にも金額的にも意味があった。日本の防衛産業は米国や欧州と比べ、日本政府が機微な技術の管理を十分担保できないのに、企業は政府から売り込むよう尻を叩かれた。「失敗してよかった」と川崎重工の幹部は話していた。政府は前のめりで、むしろ企業のほうが心配している。

アンフィルター 武器輸出では販売から生じる利益が取りざたされる。民生品の利益が十分見込めなくなり、武器や部品の製造や輸出に力を入れるようになったのか。

杉原 いや、武器輸出は今まで失敗続きだ。ただ、英国との戦闘機ミサイル共同開発が着実に進み、三菱電機はうまくいけばそれなりの利益を手にするとは言われている。三菱重工は原発輸出、民間ジェット機、大型フェリー建設などの事業が失敗続き。日本政府が動いて輸出の話が進めば、一定利益になると見ているのではないか。

ャンマー国軍を止めるためできること

アンフィルター ミャンマー国軍が使う武器は日本から輸出されてはいないか。

杉原 日本はミャンマーに武器輸出はしていない。ロシアや中国、ウクライナ、トルコ、セルビア、イスラエルが輸出している。ただ、在ミャンマー日系企業などによる現地での開発や土地賃貸料などの資金が国軍に流れている。国軍は、その資金でロシアなどから武器を買うので、間接的に日本のODAや経済協力資金が銃や弾薬に化けている。

日本の三大メガバンク、住友商事、KDDI、ホテルオークラといった大企業と日本政府がミャンマーからの撤退や取引停止を決断すれば、資金源は断てる。欧州には撤退を表明した企業が複数ある。日本企業は政府の風向きを見てしまう。決断できる企業はほとんどない。

大津 防衛装備品の輸出についても、表向きは国と国で(契約を)やる形だが、実際製造しているのは企業だ。企業が「防衛装備品を輸出せず」と方針を出すべきだろうか。

杉原 「武器輸出はしない」と掲げている企業は日本にもある。無人ボートを製造するある企業は「戦争に加担しない」と、輸出後も定期的に製品を戻させ、チェックしている。軍隊から製品購入の話がきても慎重に調べ、断っている。これは民間の自助努力だ。国として、軍事転用されやすい製品を政府が追跡したり、輸出後の報告を義務付けるといった仕組みをつくるべきだ。「友好国」にも厳しく縛りをかけるべきだ。

原則が「ザル法化」している

民生品の軍事転用は、友好国に対して野放しに近い状態にある。武器輸出の運用指針があっても前述のような詐欺的理屈がまかり通る。さらに根本的疑問を差し挟むなら、日本は「紛争当事国に売らない」を建前としているが、紛争当事国の定義が狭く、いま世界に当事国は「ない」ことになっている。おかしい。「いつどこが紛争当事国だったか」と尋ねると「湾岸戦争時のイラクが該当する」と日本政府はいう。あまりに非現実的だ。

「防衛装備移転三原則」に即せば、輸出できない国とは、国連加盟国である以上、国連が輸出を禁じている国は該当する。禁輸措置対象国は10カ国くらいある。それ以外は輸出しようと思えばできてしまう。

指摘したいのは、川崎重工がC2輸送機をアラブ首長国連邦(UAE)に前から輸出しようとしていることだ。UAEはサウジアラビアと共に約6年前からイエメン内戦に介入して無差別空爆を続け、民間人を殺害して飢餓も拡大させている。世界最悪の人道危機だと国連が警告している状況を生んだ中心国の一つがUAEで、まさに加害国だ。日本はそのUAEに軍用機を輸出しようとしている。

大津 「紛争当事国」は「紛争を主導していなければ該当しない」というのが日本政府の考えなのか。

杉原 あまりにいい加減な運用がされている。米バイデン政権さえ議会や世論の批判を受けてUAEやサウジへの輸出を止めているのに。

更にいえば、日本は米国を「紛争当事国でない」という。1980年代の中曽根政権が武器技術を供与し始めた相手は米国で、世界最大の紛争当事国であることは明らかなのに。

輸出した武器を第三国に輸出されれば紛争で使われかねない。第三国輸出には日本の事前同意が原則となっているのだが、米国向けや国際共同開発した武器は、第三国に移す際に日本の事前同意は不要、と盛り込まれている。つまり原則は「ザル法化」している。

あおられる中国脅威

大津 日本政府が考える武器輸出が可能な範囲は、「共同生産なら」「直接攻撃的なものでなければ」という解釈か。武器輸出協定で対象となる武器は、レーダーなど直接攻撃的でなければ可と理解されるのか。

杉原 いや、インドネシアへの護衛艦はまさに直接攻撃的なものだし、オーストラリアに売ろうとした潜水艦もそれだ。英国と製造するミサイルも、戦闘機同士の空の戦争で使用され攻撃型だ。運用指針に従えば禁止されるはず。歯止めになっていない。

アンフィルター 沖縄島や宮古・石垣島などにはミサイル配備が進んでいる。

杉原 米国にある保守系シンクタンク「ハドソン研究所」の村野将研究員らが日本の南西諸島(琉球弧)への中距離ミサイル配備を主張し、「日本が軍拡を進めることが中国抑止になる」と言う。本当はミサイル基地を置くことで住民に攻撃対象になる危険を押し付けているのに。

大津 政府もメディアも、右翼も左翼も、「中国脅威論」で危機をあおっている。中国が日本や米国を攻撃することはあり得ない。パニック戦略だし、これを利用した敵基地攻撃論による防衛力強化の正当化もその典型だ。そもそも、米中両政府が、直接ぶつかり合うような政治カードを切ることはない。

杉原 ミサイル配備は米国のオペレーション下に日本を組み込むこと。日本が中国と交戦することはなくても、米国と一体化して敵基地攻撃の一端に加わることはありうる。日本には、専守防衛の原則(他国へ攻撃を仕掛けることなく、攻撃を受けたときのみ武力を行使して自国を防衛する)があるので、日本が「協力できない」と明言することが軍拡を抑え、アジアを紛争から守ることにつながる。

まず市民に知らせること

アンフィルター 市民にそうした事情を知らせなければ。

杉原 対インドネシア武器輸出も日本のほとんどの人は知らない。政府の圧力で報道が忖度しているならまだわかるが、報道機関側に関心がないのだろうか。三菱電機や三菱重工はテレビ局のスポンサーであることが多く、テレビ局が軍需企業名を出すのに躊躇するかもしれないが、新聞社なら関係ないはずだが。

市民は情報がないと判断できない。テレビが特集を組み、インドネシア輸出のことを報じれば、人々は危機感を抱くと思う。

大津 日本政府には武器輸出を新聞にすっぱ抜かれたことがある。1981年に韓国への戦車砲の砲身輸出を読売新聞がいち早く報じた。戦車砲と関連する技術移転を含めた武器輸出のスクープだった。これの影響は大きく、武器輸出緩和の動きが白紙に戻ったのは確かだ。その轍を踏みたくないのだろう。

杉原 インドネシア政府と公式に進んでいる案件なのだから秘密ではない。報じればいい。その際、「武器輸出」でなく血生臭さを除いた「防衛装備品」と表現されると、市民が危機感を抱けない。「防衛装備品協定で合意」と言われてもピンとこない。

「死の商人化しつつある」と見られて企業イメージが下がるリスクを最大化していき、武器輸出のハードルを上げていく努力が、これまで以上に求められる。