日本の武器輸出の現状 パソコンやゲームは海外で軍事転用 現地で組み立てれば「合法」? 輸出に舵切った安倍

日本の武器輸出の現状 パソコンやゲームは海外で軍事転用 現地で組み立てれば「合法」? 輸出に舵切った安倍

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2021年の衆院選では「敵基地攻撃能力の保有」が争点の一つになったものの、武器輸出の議論は低調だ。その間に沖縄ではミサイル配備が進む。アンフィルターは武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司さんに現状と課題を聞いた。前半と後半に分けて掲載する。

杉原浩司 日本で使われているもの(民生品)が海外で軍事転用されていることを紹介したい。例にあげると、1970年代のベトナム戦争でソニー製のテレビカメラ部品が米軍の誘導ミサイルに使われていた。京セラのセラミック部品は米軍のトマホークミサイルなどの先端部分に使われている。パナソニックのノートパソコン「タフブック」は、その頑丈さゆえに米国警察が買い、銃弾が当たっても壊れないと評判になって米陸軍も購入、中東での戦争で砂嵐という条件下でも使えると重宝されている。

Photo: 杉原浩司/ Unfiltered

まだある。ソニーのプレイステーション(以下プレステ)を米空軍が大量購入し、高性能のレーダー開発などに応用したのではないかと見られている。日本のパソコンやゲーム機が、海外で軍事転用されている事実がある。

日本の武器輸出は7年半前に本格化した。完成した武器の輸出だと、三菱電機製の防空レーダーがフィリピンへ輸出された例がある。ただ、防空レーダー自体が殺傷するわけではないが、殺傷に直接関与している意味ではパナソニックの方が罪深いのではないか。

「武器」はどこまで

大津 昭浩 日本では武器輸出問題の前に武器のことが話題になることが少なく、市民感情として関心がないのだろう。基本的な問いから始めるが、「武器」とは拳銃、銃弾など傍目でわかるものだけか、原料・製造装置も含むか。NAJATは「武器」をどの範囲としているのか。

杉原 広義の「武器」とみなされるスポーツライフルを日本は輸出している。だが、これが戦場で使われる可能性はほぼなく、NAJATはこれを反対すべき「武器」には入れていない。

日本の武器輸出禁止の歴史

大津 デバイス類も含めると、「武器」の範囲は広いのでは。日本国憲法第9条は「戦力を保持してはならない」としているが、戦力の輸出も禁止と考えるのか。

杉原 日本は、佐藤栄作首相が武器輸出三原則を表明する1967年までは武器を輸出していた。憲法と同時に武器輸出が禁止されたわけではない。なぜ佐藤元首相が三原則を示したかというと、工学者糸川英夫氏が中心となって開発したペンシルロケットがユーゴスラビアとインドネシアに輸出され、軍事転用の恐れを指摘されたことがきっかけだ。ミサイルに使われかねない懸念を、野党が追及した。

ベトナム反戦運動など平和主義の世論が三原則をつくらせた背景もある。日本は共産圏、紛争当事国ないしその恐れがある国、武器輸出が禁じられた国には「輸出しない」と言わざるをえなかった。憲法上の非武装非軍事の理念からも「武器を輸出することで戦争を助長することはしない」とされた。

大津 兵器に転用しうる製品や原料については、詳細な規制(法律)が課せられている。民間企業が兵器とみなされるモノを輸出入するときは法律で縛るが、特定のもの(例えば防衛装備品)は国の「原則」に違反するので縛る、という二重構造になっているのか。

杉原 日本は理念でも原則でも武器輸出を禁じてきた。1976年の三木武夫内閣で全面禁輸とした。武器輸出に本格的に舵を切ったのは安倍晋三内閣だ。2014年4月の閣議決定で「武器輸出三原則」を撤廃し、「防衛装備移転三原則」なるものをつくった。これは武器の輸出や技術移転を容認するものだ。これを閣議決定だけで覆したことはゆゆしき問題だ。1981年に衆参両院が武器輸出禁止を国会決議しているのだから、解禁するのであれば衆参全会一致で決議をあげ直してからやるのが本来あるべき手法だ。

日本の武器輸出の管理法

武器輸出の管理がどうなっているかというと、経産省が「外国為替及び外国貿易法(外為法)」に基づく政令(輸出貿易管理令、外国為替令)の別表「運用方針」に即して、確認し、許可を出す。軍事転用しうる民生品の輸出規制は、「同盟国」「友好国」には緩く、中国や北朝鮮などには厳しい。米国で買われたパソコンが戦争に使われても問題としていない。

 「友好国」へ輸出するときは民間企業が直接やり取りできて許容範囲が広い、と聞く。防衛装備品を輸出するときの「原則」はどうなっているか。

杉原 「防衛装備移転三原則」では経産省が輸出可否を判断することになっていて、最終的なゴーサインは内閣が出す。「防衛装備移転三原則」成立後、米国に迎撃ミサイルPAC2の部品輸出と、三菱電機が参加して英国と共同で戦闘機用ミサイルの研究開発を行うことを許可した。

指摘したいのは、相手国と「武器輸出協定」(いわゆる「防衛装備品・技術移転協定」)を結んで武器輸出をしていることだ。米国、英、仏、伊、独、豪、印、比、マレーシア、ベトナム、インドネシアの11カ国と締結している。

インドネシアに最新鋭護衛艦を輸出へ

最近の案件は、三菱重工が基幹メーカーとなって製造している多機能護衛艦をインドネシアに売るものだ。戦闘能力が高くコンパクトで、潜水艦への攻撃もできる最新鋭護衛艦だ。

加えて、経団連に後押しされた防衛装備庁が商社と組んで、武器輸出に向けた事業実現可能性を調べている。インドネシア、マレーシア、ベトナム向けを伊藤忠アビエーションが、インド向けを丸紅エアロスペースが調査している。

「防衛装備移転三原則」の運用指針は、輸出できるものの用途を救難・輸送・警戒・監視・掃海と明記し、抑制的なものに限っている。攻撃して人を殺傷する武器は輸出しないはずだ。しかしインドネシアに売ろうとしている護衛艦は殺傷能力が高い攻撃型武器そのもの。日本政府もさすがに「これは輸出できない」と判断した。そこで取っている策が、インドネシア政府と共に現地で組み立てる「共同生産」と称するやり方だ。

現地組み立てなら「輸出でない」?

大津 「攻撃能力が高いままだと輸出が制限される、現地組み立てならいい」という理屈か。部品を輸出して相手国で組み立てるのは問題ないのか。

杉原 実態は同じで詐欺的手法だ。インドネシアが戦闘艦を持てば紛争に使われ、人が殺されることも想定される。紛争への加担は間違いない。これが了とされれば戦闘機すら輸出できてしまう。「共同生産なら可」とすればタガが外れる。