Unfiltered On the Ground 議員と話し、地道に夫婦別姓を訴える

Unfiltered On the Ground 議員と話し、地道に夫婦別姓を訴える
Photo: 齋藤周造/ 20200214_選択的夫婦別姓 勉強会<

This article has not yet been translated.

選択的夫婦別姓・全国陳情アクション 上田めぐみさん

私が中学生だった1990年代前半には、民法改正要綱を答申するための法制審議会が開かれていました。メディアでも、選択的夫婦別姓(※Unfiltered 注)のことが報道されていたので、気になっていました。

「なぜ女性ばかり姓を変えるのか」ということに疑問を抱いていたのですが、そのことに関して話をできる人が周りにいませんでした。

もやもやした気持ちのまま高校に進学したところ、家庭科の先生が授業でこの話を取り上げてくれました。

当時、家庭科は女子だけが受ける授業。結婚しても改姓したくない同級生が他にもいたので、自分だけではないこと、自分の考えは間違っていない、という確信が持てました。

選択的夫婦別姓の問題をもっと学びたいと思ったので、メディアで広く発言していた立命館大学の二宮周平先生のゼミを迷わず選択。家族法やジェンダー論を学びましたが、学びを深めるためにイギリスの大学院へ進みました。

海外で勉強や仕事をする中で、日本が世界的にかなりジェンダー不平等な社会ではないかとは思っていましたが、選択的夫婦別姓制度については「そのうち変わるだろう」という希望は捨てていませんでした。

ところが2015年、選択的夫婦別姓を求める第一次訴訟が最高裁に上告され、(カップルに同一姓を事実上強制する現行民法が)合憲だという判決が下されました。

その日、私は出張でウガンダにいたので、朝早くからインターネットで流れる日本のニュース速報を見てホテルの部屋でひとり落胆しました。

帰国して以降、耳鳴りとめまいが止まらなかったのですが、敗訴したショックが原因だったと今でも思っています。

「20年以上も制度改正に向けた活動が展開されているのに、まだだめなのか」という強い思いから、2018年の第二次訴訟では、自分も原告として加わろうと考えました。

ただ、第二次訴訟の戦略は、事実婚のカップルが「夫の氏」「妻の氏」両方にチェックを入れた婚姻届を提出して不受理になることに異議を申し立て、民法改正を求める裁判と家事審判との両方で争うことでした。

私は、不受理になることがわかっているのに敢えて婚姻届を提出することに違和感がありました。パートナーに相談すると「せっかく提出するなら受理される婚姻届を出したい」と希望したため、原告になることは断念しました。

その代わりに、「別姓訴訟を支える会」や「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」のメンバーとして活動に参加することにしました。

議員は夫婦別姓の訴えを知らない

全国陳情アクションに参加して、気づいたことは多くあります。

はじめは政界という意思決定の場が「おじさん社会」だから選択的姓が通らないと考えていたのですが、それ以前に多くの議員が「関心がない、知らない」のです。

「考えたことがなかった」と答える議員が一番多く、無関心の議員が非常に多いことに驚きました。

個々の議員と面会して、事実婚のデメリットや法律婚での旧姓使用の煩雑さといったこと、婚姻で女性の側がたいてい姓を変えなければいけない仕組みであると女性側がいかに困るかを伝えると、真剣に耳を傾け、力になろうとする人もいます。

「自分は男だから苗字を変える必要はない」と思っている議員もいますが、現行法でも半分の確率で男性側にも起こりうる。でも、彼らにそういう意識はないようです。

強く反対している議員の中には、自分が改姓している人もいますが、そういう人に限って「自分もなんとかやってきたんだから、あなたもできるはず」と精神論を主張します。選択的夫婦別姓は、同姓を選びたい人への影響はなく、婚姻後も自分の姓を名乗り続けたいと希望する私のような人が困っているからなんとかしてほしいとお願いしているわけです。

夫婦別姓への反対論者は圧倒的に男性に多いですが、自民党では女性議員が矢面に立ち、あたかも女性も中心となって反対しているような構図がつくられています。

自民党の女性議員の多くは、自身が改姓を経験しているので問題を理解していると思いますが、彼女たちは支援者や支持母体におもねっているのではないでしょうか。

昨年から統一教会の問題がクローズアップされるようになっていますが、以前から日本会議や神道政治連盟といった団体が、全国的に夫婦別姓の反対運動を展開し圧力をかけています。

地方から理解を広げる

そうした中でも、地道な活動が実を結んでいます。

自分の居住区の議員が話を聞いてくれるようになり、議会が意見書を2度可決したのです。

完全な理解ではなくとも、わかろうと努力してくれている。そのおかげで私は、選択的夫婦別姓の話だけでなく、住民としての意見や生活での困りごとなどを議員に相談するようになりました。選択的夫婦別姓に注意を払ってこなかった議会が動くきっかけを作ることができました。

例えば、自民党のある重鎮国会議員は、2年前に初めて面会しましたが、資料を見せながら説明すると理解してくれました。それまではただ知らなかっただけのようでした。

「誰一人取り残されない社会を作る」と各方面で発言する議員なので、困っている私たちを応援してくれるようになりました。大事なのは、自民党の重鎮議員に夫婦別姓は脅威でないと知ってもらうことでした。

Photo: 地元での勉強会

自民党内でも、選択的夫婦別姓への意見表明ができない議員が多数いることもわかりました。反対ではないけれど積極的に賛成とも表明できないのは、見ている方向が違うからです。

これは、賛成多数を形成しなければいけないという話ではなく、人権の問題です。少数派で困っている人を救うには、法改正しかないですから速やかにすべきです。しかし、政府は「国民の間に様々な議論がある」と逃げ、「国会で論ずるべき」との最高裁判決を無視し続けています。人権問題を多数決によって決めるものだという構図を政府が作ってしまっている点に問題があります。

議員と話すのも“運動” 

「市民運動」に対しては、デモやストライキのように、ハードな印象を持っていました。しかし、いま自分がやっていること(議員と話すこと)も運動なんだ、と気づきました。

テレビで取り上げられるイメージは、マスコミの描く運動です。裁判闘争では、法廷に毎回横断幕を持って入ることはないですが、テレビや新聞で取り上げられるのは、裁判所前に横断幕を持って入る場面です。

これは人目を引きますが、運動はそれだけじゃない。

実際、私が一人で議員と話してもマスコミは取り上げてくれません(笑)。

多様性や人権のことは、たとえ目を引きにくくてもメディアが取り上げるべき社会問題であり、追い続けるべきです。流行の話題を面白く取り上げることに今の報道は偏っているように見受けられるので、もう少し丁寧に私たちを含む少数者の声を取材してくれたり話を聞いてくれたらいいのに、と思います。

一方で、市民目線で考えると、意思表示のためにデモなども必要ではありますが、私には、これはハードルが高く感じられます。でも、議員と話をするなら自分でもできる。そう思う人はいるんじゃないでしょうか。

私自身、議員とのやり取りを重ねて初めて「これって運動だったんだ」と気づいたりしました。

政治との近さを感じた

嫌な経験はたくさんあります。

面会したい議員は目の前にいるのに居留守をつかって追い返されたことは何度もあります。

涙が出るくらい辛かった。

1996年に法改正さえされていれば、私がやらなくてもよかったことです。本当は自分や子どものためにもっとこの時間を使いたかった、と思うこともあります。

運動を通して、同じように変革を求める人たちや議員とつながり、ネットワークができました。

それまでは、議会や議員は自分と近いところにあるとは意識していませんでしたが、地元の議員や区議会、市町村議会の人たちは面会に応じてくれるし、本来、それが議員の役割です。そういう関係ができたことや、自分の出身地域や居住する自治体が意見書を可決するまでに至ったのは本当に嬉しいです。


※Unfiltered 注

選択的夫婦別姓

 日本は、結婚の条件に夫婦が同一姓となることを法律で求めている。「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称する」と民法750条が規定している。現状では96%の夫婦が夫の氏を選んでいる。

これに対して、夫婦が望めばそれぞれの結婚前からの姓を名乗れるようにする「選択的夫婦別姓」を求める人たちは民放や戸籍法などの法改正を求めている。一方で、現行制度を維持するべきとする勢力は通称使用の拡大で十分であるとする。

選択的夫婦別姓の実現の機運はこれまでに2度あった。1度目は1996年、法制審議会で導入指針が示されたが自民党の反対で法案の国会提出が見送りに。2度目は民主党政権下の2010年。全員一致が原則の閣議で国民新党が反対した。

選択的夫婦別姓を求める男女5人は2011年、「結婚に際し夫と妻のどちらかが改姓しなければならない民法の規定は、個人の尊重を定めた憲法13条や、両性の平等を定めた24条などに違反する」として、1人当たり100万円の国家賠償を求め東京地裁に提訴した(第1次訴訟)。最高裁は2015年に「同姓を定めた規定は合憲」と判断、原告敗訴を言い渡した。最高裁大法廷は「夫婦同氏制の採用については、嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏のあり方に対する社会の受け止め方に依拠するところ少なくなく、この点の状況に関する判断を含め、この種の制度のあり方は国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、さらなる議論を求めた。

司法が国会での議論を促した形だが、国会での議論は事実上、停滞。これを危ぶんだ選択的夫婦別姓を求める人たちは、地方議会に働きかけて意見書可決を求め、これを求める人の多さを数で示す運動「選択的夫婦別姓陳情アクション」を展開する。