Still Living, a photography exhibit from survivors of DV and sexual assault

Still Living, a photography exhibit from survivors of DV and sexual assault
©️Stand Still 2020 分岐点

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17歳で妊娠した彩咲りんさん(仮名)は、病院で「最後に性交渉したのはいつですか」と尋ねられ、答えに迷った。
 恥ずかしかったからとか、辛かったからではなく、その意味が理解できなかったからだ。
「性を交渉するって、え? 何ですか? という感じでした」
 この時、結婚した5歳年上の夫は「お前は何も知らないから俺が教えてやる」と言った。診察してくれた産婦人科の医師も、夜の巡回診察の時に「また来るからね」などと言いながら、毎回、彩咲さんの足に触れていくような人だったという。
 夫自身も子どもの頃に親からの虐待にあった人で、結婚当時、自分は絶対に親のようにはならないと誓ったはずだった。それなのに、4人のうち同居する3人の子どもは今でも父親からの暴力によるPTSD(心的外傷後ストレス)に苦しみ、彩咲さん自身も未だに通院を続ける。
 夫とは10年ほど前に離婚が成立した。

©️Stand Still 2020 分岐点

今だからこそ笑いながら振り返ることができるようになったが、彩咲さんが元夫の行為は「ドメスティック・バイオレンス(DV)」だと知ったのは、処方箋薬品に溺れ、働くことも子育てもできない元夫に耐えかねて、生活相談するために行政窓口へ駆け込んだ時だった。相談員から、DVのチェックリストを渡されて、15項目中全てにチェックがついた。
 頭の靄(もや)が少しずつ晴れていくようだった。 
 そしてひとつずつ紐解いていった。幼い頃から、近しい人や近所の男性にされた行為が「性暴力」だったと認識すると同時に、自分がその被害者であることや産婦人科の医師からのハラスメントも含み、あれもこれも暴力だったと理解することができた。
 そして昨年、性暴力のサバイバーが写真を通して、自分と、そして自らの性暴力被害と向き合う創作活動を企画する、Stand Stillを設立した。今は代表として、8人ほどのサバイバーとともに会を運営する。 
 この写真ワークショップでは、参加者がテーマに沿って写真を撮影し、展示会とギャラリートークで締めくくる。サバイバーが自分の被害と向き合う回復プロセスとして、フォト・ジャーナリストの大薮順子さんが米国で実施。大きな反響を呼んだ。
 彩咲さんは、昨年、日本で開催されたこのワークショップに参加し、Stand Still のワークショップでは大藪さんを講師に招いた。
「自分が生き延びてきた暴力の被害がやっと言語化できるようになりました。それまでは、自分がどこに立っているかもわからないほど混乱していて、その中から必死に希望を見出していく作業でした。今までハテナマークだらけだったものが、次第に霧が晴れていくようになったので、それを表現したかった」

Stand Stillは11月29日から2週間、神奈川県横浜市で「性暴力サバイバー ビジュアルボイス写真展」を開催し、写真20点ほどを展示した。最終日のギャラリートークで彩咲さんは、地面に立つ自分の足を上から撮影した作品について、そう説明した。作品は『分岐点』と名付けた。
 夕日にかざして光ったガラス玉を見ているもう一つの作品は『それでも生きる』と題した。暴力によってあらゆるものが奪われていく中で、どんなに辛くても過去は変えられないのだと痛感したことを表現したつもりだった。
 展示会の参加者の一人は、自分が軟禁状態にさせられていた被害を、2枚一組の写真で表現した。
 1枚目は、工事現場の足場を薄い網が覆う写真。もう1枚は、その網が剥がれている写真にした。加害者から心身ともに支配されていた状態と、夫の声かけで「心を支配していた幕が剥がれ落ちたような気がした」こととを表現した。
 彩咲さんは、「サバイバーだけでなく、性暴力には無関心だという人や被害にあったことに気づいていない人にも、見て感じ取って欲しい」と願う。
 長い間黙らされてきた当事者は、自己表現できるツールを求める。特に、加害者に怯えたり、理不尽なバッシングを恐れたりする被害者にとっては、姿を見せずにメッセージを発することができる表現方法はエンパワメントにもつながる。
 ある人は文章で、またある人は仮装パレードで、絵画や映像で、これまで胸に閉じ込めていた感情を吐き出す。自分自身を解放することで、サバイバーは自由を手に入れることができるという。
 もちろん、性暴力やDVの被害者には、ピアカウンセリングや自助グループなど様々な支援の形がある。ただ、お互いの被害経験や気持ちについて語り合うことがベースにあるため、他者の話を聞いて辛くなったりフラッシュバックを起こして具合が悪くなったりする人も少なくない。当事者同士がぶつかり傷つけあってしまう人や、支援者と当事者との間で生まれる上下関係を窮屈に感じるようになる人もいるという。
 彩咲さん自身は、DV被害女性と子どものための支援・教育プログラムを経てインストラクターの資格を取得して支援する側に立ちたかったが、まだ父親からの暴力でトラウマを抱えている3人の子どもを置いて活動に専念することはできなかった。
「ガツガツ支援するのではなく、自信を高めていけるように、当事者も支援者もエンパワーする活動を求めていたので、写真ワークショップは理想的でした」(彩咲さん)
 彩咲さんが17歳の時に生まれた長男は、今年20歳になる。彼だけは父親の元に残るため、会うこともままならない。彩咲さんが、DVや性暴力被害のサバイバー支援の活動を通して表現し続けるのは、その先に長男の姿を見るからだ。
「彼へのメッセージでもあるんです。いつか届いてくれるかもしれないと、それが私の活力になっています」

「性暴力サバイバー ビジュアルボイス写真展」の今後の予定。

山梨県立図書館イベントスペース東面(2021年1月27日〜31日)
TAMA女性センター ヴィータ・コミューネ7階(2021年2月8日〜13日)
TAMA市役所本庁舎1階ロビー(2021年2月16日〜26日)


STAND Still WEBサイト
https://standstill.jimdofree.com/
大藪順子さんの団体 Picture This Japan WEBサイト
https://www.picturethisjapan.com/