Is Japan's media stirring up US-China tensions?

Is Japan's media stirring up US-China tensions?
中国共産党創設100年の祝賀式典で演説する習近平党総書記(国家主席)=テレビ朝日サイトから中国共産党創設100年の祝賀式典で演説する習近平党総書記(国家主席)=テレビ朝日サイトから

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新聞各紙が7月2日朝刊の1面で報じた中国共産党の創設から100年を祝う式典。習近平党総書記(国家主席)は、天安門に掲げられた「建国の父」である毛沢東の肖像画と同じ灰色の人民服姿で登壇し、マスクをつけない7万人の党員を前に行った演説は65分に及んだという。

朝日新聞が一面トップの見出しを「習氏、外圧『許さない』中国共産党100年 台湾統一『任務』」としたように、日本メディアは、米国を念頭に置いた対外強硬姿勢や台湾統一に関する習氏の発言に注目。一部のキャスターらからは米中や日中の軍事的な衝突を視野に入れた発言も飛び出した。

「(他国が中国に対する圧迫を試みれば)14億人民が血と肉で築き上げた鉄鋼の長城に頭をぶつけ血を流すだろう」ーー。

報道リテラシー

ドキっとさせる習氏のこの演説に新聞・テレビでもっとも強く反応していたのは、テレビ朝日の「報道ステーション」(1日)だった。コメンテーターの梶原みずほ・朝日新聞編集委員は、「この言葉は、米中戦争を想起させる」と感想を述べた。

米中関係を「戦争」とテレビで表現する報道関係者は少ないだけに、この発言にまた驚いた。梶原氏は「日本もそうなれば当然、巻き込まれることになってしまうから、それは絶対に避けたい。米中戦争の回避は、歴史の中からみても今後も大きなテーマであり、大きな責任でもある」と続けた。緊張はそれほど高まっているのか。

米国では、2人の元軍人が13年後の南シナ海を舞台に米中戦争を描いた小説『2034』が話題になっているらしい。梶原氏は、著者の一人であるジェイムズ・スタヴリディス氏(元米欧州軍司令官兼NATO軍最高司令官)にインタビューした記事で「今年3月、米インド太平洋軍のデビッドソン司令官(当時)が上院軍事委員会で、中国による6年以内の台湾侵攻の可能性に言及しています」(朝日5月20日朝刊)と質問している。こうした東アジアの状況認識が報ステでの「米中戦争」発言の背景にあったのだろうが、習氏の主として国内に向けた演説はその根拠になるのだろうか。

「米中戦争」というまだテレビでは聞きなれない言葉を習氏の演説と絡めて使った1日夜の報道番組は報ステだけだったが、回避の視点だったのが救いだ。

これに対し、中国への軍事的な対応への準備を強調したのは、NHKの「ニュースウオッチ9」(NW9)だ。

「(中国との)対話も大事だが同時に強さを見せておかないとだめだ。中国は戦わずして勝てるようなサイバーとかAIを(強化)しようとしている。そういう部門に日本はきちんと対応できるようにしないといけない」。国分良成・前防衛大学校長の主張を3つの論点について約2分半にわたって紹介した。

問われる報道の姿勢

インタビューアーを務めた田中正良キャスターは「中国は対外的には台湾に圧力を強めたり、尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返したりしています。日本は不測の事態に備える準備が必要だ」とニュースを締めくくっていたが、この発言にも驚かされた。防衛省関係者や自民党の防衛族の発言ではない。「戦争」という表現こそ使っていないがこのニュース構成からは、NHKのキャスターが外交力よりも軍事力による備えを視聴者に呼び掛けたと受け止められても仕方がないコメントだったからだ。メディア自身が戦争をあおり始める兆しなのか。

平日夜の報道番組では最も遅い時間帯のフジテレビの「Live News α」は、報ステやNW9とは少しニュアンスが違った。同番組は「(習氏は)台湾統一への強い決意を示した。ただ、過去には言及があった武力統一には直接触れなかった」と報じ、風間晋解説委員は「演説の全文を読んでみると、平和統一プロセスを推進するといった従来の範囲内だった」と指摘した。そうだとすれば、報ステやNW9の捉え方はかなり勇み足だということになる。

一方、在京6紙はいずれも習氏の演説に関する記事で「米中戦争」という言葉は使ってはいなかった。テレビという映像媒体は、活字と比べ、視聴者の感情に訴えやすい特性がある。それだけに中国の覇権主義を批判したり、解説したりするにあっては緻密な分析を基にした慎重な言葉選びは欠かせない。そうでなければまた、国民がいたずらにあおり立てられれてしまいかねない。